/ 17min read / updated 2026.10.07
ゼロイチの起業と営業 · 第2話 / 全5話

営業が苦手な人が売り込まずに起業する3つの方法

OVERVIEW

「売り込むくらいなら、仕事が取れなくてもいい」と思いながら起業を考えている人へ。営業が苦手なまま、最初のお客さんにどう出会うのか。テレアポも飛び込みも交流会もせずに独立した現役経営者が、その問いに実体験で答えます。

苦手 売り込まずに 最初の客は?

「営業なんて、一度もやったことがない。営業したくない。売り込むくらいなら、仕事が取れなくてもいい」 ── もしあなたがそう思いながら、それでも起業を考えているなら、この先はあなたに向けて書いています。

売り込まなくても、最初のお客さんに出会う方法はあります。

申し遅れました、高井と申します。エンジニア出身の人見知りで、あがり症。一度も正社員にならないままフリーランスとして現場を渡り歩き、営業も一度もしないまま、資金も人脈もないゼロの状態から起業して、最初はまったく仕事が取れませんでした。それでも今は、AIと自動化でひとりで会社を回し、東京都や総務省のスタートアップ支援にも採択いただき、やりたい仕事だけを受けて会社が回っています。だからこの記事では、営業が得意な人の成功談ではなく、営業ができなかった私が、どうやって最初の仕事につながるきっかけをつくったのかをお話しします。

営業が苦手・営業したくないままでも起業できる?

多くの人が、起業をためらう一番の理由に「営業ができないこと」を挙げます。でも、少しだけ考えてみてください。あなたが「営業」と聞いて思い浮かべるのは、どんな場面でしょうか。

テレアポで、知らない相手に電話をかける。飛び込みで、いきなり会社を訪ねる。商談の最後に、相手を押し切って契約を取る。

「お願いします」と言うだけなのに、断られるのが怖い。何を話せばいいかわからない。相手の反応を気にして、どんどん言葉が出なくなる。

もしあなたが「営業が苦手」と感じているのなら、苦手なのは、もしかすると営業そのものではなく、「売り込むこと」なのかもしれません。⁠

そして、事業を続けていくために本当に必要なのは、必ずしも「売り込む力」ではありません。

必要なのは、⁠⁠「この人になら頼みたい」と思ってもらえる信頼をつくることです。

売る力ではなく、信頼される仕組み。

ここを分けて考えるだけでも、「営業ができないから起業できない」という思い込みは、少し変わってくるはずです。

「営業」 売り込む 苦手なのはここだけ 信頼をつくる 本当に必要なのはこちら

経営学者のピーター・ドラッカーは、著書『マネジメント』で「マーケティングの理想は、販売(セリング)を不要にすることだ」と書きました。つまり、売り込まなければ売れない状態を、ひたすら営業力で補うのではなく、「売り込まなくても選ばれる状態」をつくる。それができれば、苦手な営業活動そのものを減らしていけます。これは、「営業を頑張らなくても何とかなる」という精神論ではありません。営業をしなくても仕事につながるように、最初から仕組みを考えるということです。

内向的な気質そのものが、なぜ事業では強みに変わるのか ── その話は別の記事にゆずります。ここでは、気質を変えないまま、営業をどう回すかという実務のほうに絞ります。私自身、営業は一度もしたことがありません。それでも仕事が回るようになったのは、押しの強さで勝ったからではありません。喋るのが苦手な自分でも、どうすれば信頼してもらえるのか。そこを考えて、自分に合わない営業を無理に克服するのではなく、⁠⁠「売り込まなくても信頼が伝わる方法」に組み替えていったからです。⁠

次に、その一番地味で、一番効いたやり方をお話しします。

話すのが苦手でも価値を伝える方法

私が最初にたどり着いた答えは、⁠⁠「口で説明するのをやめる」ことでした。⁠

打ち合わせで、頭の中にあることをその場でうまく言葉にするのは、どうも苦手でした。だから商談に臨む前に、相手の要望を一枚の図解にまとめ、簡単に動く試作(モック)まで作って持っていくようにしました。⁠話す代わりに、見れば伝わるものを先に用意しておくんです。⁠

エンジニアだったので、言葉で説明するより、動くものを見せるほうが早い。「完成するとこうなります」という画面を、先に目の前へ置いてしまうのです。

自分でも意外なことが起きました。

私のたどたどしい説明を聞くより先に、図解や試作を見て「あ、こういうことか」と理解してくれる。こちらは、うまく喋れなくても構わない。

納品物に近い形が、私の代わりに営業してくれるからです。

技術者や専門職の人ほど、この「見せる営業」と相性がいいはずです。あなたが作ったものそのものが、提案書にもポートフォリオにもなります。

話すのが得意な人には、話す武器があります。

作れる人には、見せる武器がある。

わざわざ苦手なほうで勝負しなくていいんです。

売り込んでも最初の客が取れない原因

では、その「見せる」ものを、どうやって最初のお客さんに届けるのか。ここで多くの人が、いきなり見込み客へ売り込もうとして、つまずきます。

あなた自身は、知らない相手からの売り込みを、どれくらい信じるでしょうか。広告や飛び込みの営業トークを、そのまま鵜呑みにはしないはずです。逆に、信頼している友人が「あそこ、よかったよ」と言えば、すっと信じてしまう。私たちは、売り込みよりも、誰かからの推薦を信じやすいものです。

これは感覚だけの話ではありません。ニールセンが60カ国・3万人規模で行った調査では、「知人からの推奨」を信頼すると答えた人が約83%にのぼり、あらゆる情報源のなかで最も信頼されていました(Global Trust in Advertising 2015|Nielsen)。少なくとも、知人からの推薦は、広告とは違う強さを持っています。だとしたら、最初のお客さんを探すときも、あなた自身が一人ひとりに売り込む必要はありません。「誰かの信頼」を経由して出会う方法もあります。

やるべきことは、売り込みの精度を上げることではありません。「どうすればうまく売り込めるか」と悩み続ける必要もないのです。大切なのは、「この人は誠実だった」と、誰かの記憶に残ること。

「営業しなきゃ」と自分を追い込んで、苦手なことを無理に続ける必要はありません。最初のお客さんに出会う方法は、売り込みだけではないからです。

自分 客 先に押す = 弾かれる 自分 信頼 客 信頼を経由 = 届く

そして、信頼を経由した出会いには、もう一つ良いところがあります。

一度仕事をして「この人に頼んでよかった」と思ってもらえれば、次の仕事につながることがあります。そこから、別の人を紹介してもらえることもある。仲間も同じ道から出てきます。仕事ぶりを見た人の中から一緒にやる相手が現れる話は、別の記事に書きました。

ひとつの信頼が、次の仕事や、次の出会いにつながっていく。

その積み重ねなら、営業が苦手な人でも続けていけます。

起業したら交流会・名刺交換は必要?

とはいえ私も、最初から分かっていたわけではありません。独立した直後は「起業したら、まず人脈づくり」という世間の常識をそのまま信じ、異業種交流会に何度か通いました。

その結果、とても消耗しました。名刺交換をして回っても、その場で仕事につながることはなく、帰りの電車では一言も話したくないほど疲れ果てている。翌日の開発の集中力まで削られる。これは自分の戦い方ではない ── そう認めて、私は交流会から降りました。

大事なのは、我慢が足りなかったと自分を責めることではなく、「これは自分のやり方ではない」と早めに見切ることです。私にとって、⁠交流会に行かないと決めたことも「事業の設計の一部」でした。⁠

売り込まずに最初の客に出会う3つの方法

交流会をやめて、では何をしたのか。ここからは、私が実際にやってきた、⁠営業が苦手でも続けやすかった方法を3つに整理します。私にとっては、このやり方が一番無理なく続けられました。

  1. 目の前の一人に、誠実な仕事をする — 数を追う前に、いま関わっている一人の相手に、⁠⁠「ここまでやってくれたんだ」と思ってもらえる仕事を返す。⁠ 見込み客を増やすことばかり考えるより、まず一人に「この人なら安心して任せられる」と思ってもらう。その一人から、次の仕事につながることがあります。相手の話をよく聴く力は、内向的な人がもともと持っている武器です。表面的な要望だけでなく、その奥で本当に困っていることまで聞ければ、無理に話を盛ったり、押し切ったりする必要はありません。相手の話を丁寧に聞くこと自体が、信頼をつくる最初の一歩になるからです。

  2. 納品物という「見せられる形」で語る — 言葉で自分を説明するのが苦手なら、成果物に語らせます。作ったもの、書いたもの、直したもの。一つひとつを事例として残していけば、それがそのまま実績になり、次の相手への説明を省いてくれる。フリーランスや個人事業主にとって、丁寧に制作された納品物は、そのまま次の仕事につながる実績になります。専門性は、語るより、見せたほうが伝わります。

  3. 発信と実績を、静かに積み上げる — 売り込まず、ただ役に立つことを書いて出し続ける。記事でも、SNSでも、自分が続けやすい形で構いません。書くことなら、その場で言葉を返すのが苦手な内向的なタイプの人でも、自分の考えを整理して伝えられます。すぐに反応がなくても、発信と実績は残ります。後になって、それを見た人から声がかかることもあります。

この3つに共通しているのは、こちらから無理に売り込む必要がないことです。テレアポや飛び込み営業をしなくても、仕事につなげる方法はあります。必要なのは、誠実な仕事をすること。それを実績として残すこと。そして、すぐに結果が出なくても続けることです。

順番も大事です。いきなり3番目の「発信」から始めて反応がないと心が折れますが、まず1番目の「目の前の一人」で小さな信頼と実績を1件つくり、それを2番目の「見せられる形」にして、3番目で発信に載せる。たとえ実績がなくても、この順番なら少しずつ雪だるまのように実績を作れます。最初の一件を次の実績につなげ、その実績を次の仕事につなげていくことができます。

この順に 1 目の前の一人に誠実な仕事 2 納品物という見せられる形 3 発信と実績を積み上げる 信頼 客

最初の顧客を探すときも、いきなり大勢に売り込むのではなく、まずは今いる人との仕事やつながりを見直してみてください。

押し売りにならない提案のやり方

3つの方法のうち、一番目の「誠実な仕事」の中で、私が意識してきた小さな型を一つだけ紹介します。それが、提案の伝え方です。

展示会などで出会えた方に、まず良い仕事をする。そのうえで、作業の中で「ここはこうしたほうがいいのに」と気づくことがあります。でも、営業が苦手な人間ほど、これを言い出すのが怖い。押し売りだと思われたくないし、出過ぎた口をきいて嫌われるのも怖い。

そこで私は、提案を必ず「疑問形」にしてきました。「こうすべきです」と言い切らず、「ここは、こういう形もあり得ますか?」と、判断の余地を相手に残す。ヒアリングの延長のように、そっと差し出す聞き方です。結論を押し付けないことで、相手にも考えてもらいやすくなります。

こちらの見立てが合っていれば、相手から「たしかにそのほうがいいですね」と話が進むこともあります。

この積み重ねで、仕事ぶりを見た別の方から、紹介をいただけるようになりました。押し売りをしないことは、何も提案しないことではありません。判断を相手に委ねる形で、提案することはできます。 社内の上司や決裁者に対して同じ疑問形を使う話は、別の記事で書きました。

営業しない起業のデメリットと対策

ここまで良い面ばかり話してきましたが、正直なところも言います。⁠売り込まないやり方にも、もちろんデメリットがあります。いちばん大きいのは、仕事が安定するまでに時間がかかることです。⁠

信頼が積み上がって、紹介や指名が回り始めるまでには、それなりの時間がかかります。売り込みで短期間に顧客を増やす方法と比べると、最初の数カ月は仕事が少ない状態が続く可能性があります。ここで焦って「やっぱり営業しないとダメなんだ」と結論を急ぐと、自分に合わない方法へ戻ってしまうことがあります。

しかもこの時期は、焦りを打ち明ける相手もいないまま、決めるのも自分ひとりになりがちです。その孤独を抱え込まない工夫は、起業は孤独?ひとりで抱え込まない5つの設計にまとめました。

この遅さは、設計でかなり小さくできます。⁠その対策の一つが、副業から小さく始めることです。⁠

会社員のまま、収入の柱を残した状態で、事業の芽を育てていく。そうすれば、立ち上がりに時間がかかっても、生活への影響を抑えられます。

まだ自信がない段階なら、いきなり独立せず、小さく試してみる方法もあります。

もう一つ。遅さの奥には「そもそも、このサービスに需要があるのか」という不安が隠れていることも少なくありません。だとしたら、作り込む前に、小さく市場の反応を確かめてしまうのが早い。

需要を先に確かめておけば、立ち上がりの遅さが「売れないかもしれない不安」に化けずに済みます。

時間 副業の収入 = 土台 売り込み型 売り込まない型 立ち上がりの遅さ 需要を先に確かめる

「紹介が仕組みで回る場」とは?

最後に、もう一段だけ踏み込みます。ここまでの話は「紹介が来るように、誠実に振る舞おう」というものでした。でも、正直に思いませんか ── その紹介も、結局は運任せなのでは?⁠ と。

私も長く、そう感じていました。交流会をやめたあと、私は過去に関わった相手にだけ、誠実に向き合い続けました。ずいぶん経ったある日、一度も売り込んでいないのに、私を思い出して紹介してくださった方がいた。うれしかった一方で、こうも思ったんです。

少なくとも私の場合、機会は、売り込みの量ではなく、誰かの記憶に残った仕事や誠実さから生まれていました。ならば、その誠実さが、人の記憶や好き嫌いに頼らず、ちゃんと記録されて回る仕組みさえあれば。営業が苦手な私のような人でも、報われる仕組みがつくれるのではないか、と。

私がこれまで経験してきた紹介や人脈の場では、声の大きさやその場での積極性が、機会につながる場面も少なくありませんでした。誰がどれだけ人に貢献したかは記録されず、その場の印象に流されていく。そのため、目立つことが苦手な人は、どれだけ人に貢献していても、その働きが評価につながらないことがあります。

「いい人が損をする」 ── 誠実に貢献しているのに、次の仕事や縁につながらない。もしそう感じるなら、本人の努力だけでなく、つながり方そのものを見直す必要があるのかもしれません。

もし、その貢献が記録され、それをもとに新しいつながりや機会が生まれるとしたら。声の大きさではなく、誠実さで縁が配られるとしたら。私がいま VectL という形でつくろうとしているのは、そうした仕組みです。

貢献 記憶 紹介 善意と記憶頼み = 途切れる 貢献 機会 記録 記録されて回る = 続く

ただ、正直に言えば、こうした仕組みも、参加する人たちの貢献やつながりが積み上がるまでには時間がかかります。魔法ではありません。

それでも、紹介を「運」のままにせず、⁠少しでも仕組みとして支えられる形にできないか。⁠それが、私が VectL で取り組んでいることです。

まとめ

要点を、もう一度だけ整理します。

  1. あなたが苦手なのは、「営業」そのものではなく、テレアポや飛び込みといった「売り込み」なのかもしれません。事業に必要なのは、売る力だけではなく、信頼される仕組みです。

  2. 話すのが苦手なら、図解・試作・納品物という「目に見える形」で伝える。作れる人には、見せる武器があります。

  3. 最初のお客さんは、売り込みだけから生まれるわけではありません。目の前の一人への誠実な仕事、見せられる実績、静かな発信。この3つを、この順番で積み上げていきます。

  4. デメリットである「立ち上がりの遅さ」は、副業から始め、需要を先に確かめることで和らげられます。

  5. 紹介を運任せにしない方法もあります。誠実な貢献が記録され、それが次の仕事や縁につながっていく仕組み ── それをいま形にしようとしています。⁠

営業≠売り込み 信頼が先 3つを順に 小さく始める 記録で回る仕組み
faq

よくある質問

開く ▾

Q. 営業したくないまま起業して、食べていけますか?

できます。ただし、立ち上がりは売り込み型より遅くなります。売り込みの代わりに、誠実な仕事・見せられる実績・静かな発信で信頼を積み、紹介や指名につなげていくことはできます。副業から小さく始めるのが安全です。

Q. 人脈も営業経験もないエンジニアですが、最初の客はどう見つけますか?

図解や動く試作など「見せられる形」を先に作り、目の前の一人へ誠実な仕事を返すところから始めてください。技術者なら、納品物そのものを提案材料にできます。その一件が、次の紹介の起点になります。

Q. 提案すると押し売りに感じられそうで、怖いです。

提案を「疑問形」にしてみてください。「こうすべきです」ではなく「こういう形もあり得ますか?」と、判断を相手に残す。判断を相手に残せるので、押し付けになりにくくなります。

Q. 交流会や名刺交換は、やっぱり必要ですか?

必須ではありません。合わないと感じるなら、無理に通わなくていい。私自身は交流会から離れ、過去に関わった相手との仕事に丁寧に向き合うようになってから、紹介につながることが増えました。

Q. 売り込まない集客は、時間がかかりすぎませんか?

たしかに信頼の蓄積には時間がかかります。だからこそ副業と並行し、需要を早めに確かめておく。焦って売り込みに戻るのではなく、自分に続けやすい方法で信頼を積み上げていくことが大切です。

売り込まない人が、選ばれる側になる

自分 売り込む 客 売る力 = 弾かれる 売る力ではなく 信頼が先に立つ 客 信頼 自分 信頼される仕組み = 客から来る

売り込みが苦手なことは、起業を諦める理由にはなりません。声の大きさや押しの強さだけが、仕事につながる方法ではありません。あなたの誠実さも、誰かの記憶に残っていきます。その記憶が、次の縁を連れてくる。

もし、その誠実さがきちんと報われる場所を探しているなら、そういう選択肢を用意しようとしている人間が、ここにいます。無理に飛び込む必要はありません。「こういう道もあるのか」と、心の隅に置いておいてもらえたら、それで十分です。 → VectL

share

誰かの役に立ちそうなら、共に届けよう。

— for the Agentic minds

$

author

高井昭彦

Yakaze Tech Studio 代表 / VectL 運営。総務省・東京都・AWS など多数のスタートアップ支援プログラムに採択。 現役で受託開発と自社プロダクトの両方を手がけ、AI エージェントを制御して事業を作る一次情報を発信している。