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ゼロイチの起業と営業 · 第5話 / 全5話

起業は孤独?ひとりで抱え込まない5つの設計

OVERVIEW

夜、パソコンを閉じたあとに残る「決めるのは、今日も自分ひとりだった」という感覚。起業の孤独はどこから来て、放っておくと何が起きるのか。相談相手ゼロで起業し、いまもひとりで会社を回す経営者が、孤独を抱え込まないための設計を実体験から書きました。

これでいいのか 起業の孤独 誰に?

「今日も、決めるのは自分ひとりだった。この価格でいいのか、この案件を受けていいのか、そもそもこのまま続けていいのか。誰かに聞きたいのに、聞ける相手がいない」 ── 夜、パソコンを閉じたあとに、そんな感覚が残っているなら、ここから先はあなたのための話です。

先に、正直なことを言います。起業の孤独は、消えません。ひとりで始めた以上、決める責任は最後まで自分に残ります。でも、⁠孤独を「抱え込む」か「置き場をつくる」かは、選べます。⁠ そして、抱え込まないための設計は、人付き合いが得意でなくても組めます。

申し遅れました、高井と申します。私は一度も正社員にならないまま、フリーランスのエンジニアとして9年、現場を渡り歩いてから起業しました。駆け出しのフリーランスの頃、月に300時間働いて、手元に残るのが15万円という時期もありました。10時間コーディングしても、報酬になるのは3時間分だけ。それを誰にも言えないまま、ひとりで回していました。会社に属さない働き方の孤独は、起業の前から始まっていたのです。そして起業したとき、相談できる相手は誰もいませんでした。資金も人脈もないゼロの状態でしたから、当然、最初はまったく仕事が取れません。それでも今は、AIと自動化を使ってひとりで会社を運営し、東京都や総務省のスタートアップ支援にも採択いただいています。やりたい仕事を中心に、事業を続けられるようになりました。従業員はいません。電話はAIが受けています。つまり、仕事の形としては今も「ひとり」です。それでも、孤独ではありません。この記事は、その違いがどこから来たのかを、実体験として書きます。

起業すると孤独になる理由

まず、なぜ起業すると孤独になるのか。独立すると、それまでとは違う孤独を感じるようになるのには、いくつか理由があります。

一つめは、⁠決めるのが、いつも自分ひとりだということです。会社なら、上司に判断を仰ぐこともできるし、「みんなで決めた」と言える場面もあります。起業すると、それがなくなります。価格も、受注も、撤退も、自分で判断しなければなりません。しかも、その結果を引き受けるのも自分です。決めること自体より、決めたあとに「これでよかったのか」を抱え続ける時間のほうが、じわじわと重くなっていきます。

二つめは、⁠同じ立場の人が、周りから消えることです。会社員だった友人に話しても、「大変だね」で終わります。悪気はありません。ただ、毎月の売上を自分で立てる感覚は、経験していない人には伝わりにくい。会社という枠を出た瞬間に、「隣の席の人」がいなくなるのです。

三つめは、⁠弱音を言う相手がいないことです。家族には心配をかけたくない。友人には通じない。取引先には、当然言えない。「うまくいっていない」と口に出せる場所が、なくなってしまいます。

これは私だけの感覚ではないようです。資金繰りに悩む中小企業の経営者1,015人を対象にした調査では、「経営者であることの孤独感や精神的負担を感じたことがあるか」という問いに、「とてもある」が42.9%、「ややある」が42.4%。合わせて9割近くが、孤独感や精神的負担を感じたことがあると答えています(「中小企業の資金繰り」に関する調査|株式会社F-style)。資金繰りに悩んでいる人が母集団なので、数字は高めに出ている可能性があります。それでも、悩みを抱える経営者の多くが、孤独感や精神的な負担を感じていることは、この調査からも見て取れます。

もう一つ。右腕にあたる人がいない中小企業の経営者101人への調査では、「経営の悩みを相談できる人が周りにいるか」に、42.6%が「いない」と答えています(経営の相談に関する実態調査|Management Masters(株式会社未来塾))。相談相手がいない経営者は、4割にのぼります。つまり、孤独を感じること自体は、あなたの性格や努力不足だけが原因ではありません。自分で判断し、その結果を自分で引き受ける働き方だからこそ、孤独を感じやすくなることがあります。

決めるのが、自分ひとり 同じ立場の人が、消える 弱音を言う相手が、いない 性格ではなく、働き方の構造から来る

会社の中で新しい事業を任されている人も、似た孤独を抱えることがあります。社内に同志がいない、上司は決裁者なので本音を言いにくい。そうした話は、別の記事で詳しく書いています。

ひとり起業と経営者・フリーランスの孤独の違い

「経営者の孤独」という言葉は、よく聞きます。ただ、従業員を抱える社長の孤独と、ひとりで起業した人の孤独は、少し質が違います。

従業員がいる社長の孤独は、「言えない」孤独です。周りに人はいるけれど、給料を払う相手に弱音は吐けない。フリーランスの孤独は、「所属がない」孤独です。仕事はあるけれど、帰る場所としてのチームがない。

ひとり起業の孤独は、その両方とは少し違います。⁠話す相手そのものがゼロなのです。言えない相手すらいない。しかも、会社を背負う責任は、一人でも変わりません。個人事業主や一人社長が「起業家の孤独」の記事を読んでも、どこかしっくりこないのは、たぶんこのせいです。ここでは、⁠話す相手がいないまま一人で起業している人に向けて、話を続けます。⁠

起業の孤独を放置するデメリット3つ

孤独は、感情の問題として語られがちです。でも実際に効いてくるのは、感情そのものより、孤独が判断に与える影響のほうです。放っておくと、三つのことが起きます。

  1. 判断が、遅れるか、極端になる — 相談相手がいないと、迷ったときに決められなくなるか、逆に勢いだけで決めてしまうか、どちらかに振れます。どちらを選んでも、あとになって負担になります。

  2. 視野が狭くなり、同じ失敗を繰り返す — 自分の頭の中だけで考え続けると、選択肢が減っていきます。「これしかない」と思い込んでいることが、外から見ると、実は別の選択肢がある。そんなことは、よくあります。

  3. 心身が、静かに削れる — 弱音の置き場がないまま働き続けると、ある日、動けなくなります。燃え尽きは、派手に倒れるのではなく、朝、パソコンを開く手が止まる、という形で来ます。

私は、三つとも経験しました。

駆け出しのフリーランスだった頃のことです。月に300時間働いて、手元に残るのは15万円。10時間コーディングしても、報酬になるのは3時間分でした。今振り返れば明らかにおかしい状態なのに、私はそれを誰にも言いませんでした。

相談する相手がいなかったのもありますが、それ以上に、「うまくいっていない」と口に出すことが、負けを認めることのように思えたのです。だから黙って、もっと働きました。働けば働くほど、時間あたりの実入りは下がっていくのに、それを止める判断を、ひとりではできませんでした。

いま振り返れば、誰かひとりでも「その働き方、おかしいよ」と言ってくれる相手がいれば、もっと早く止められたはずです。起業してからも、一社目の事業を終えるときまで、この癖は残りました。振り返ってみると、孤独がつらかったというより、ひとりで判断し続けることが問題だったのです。

ひとりで 判断し続ける 判断が、遅れるか極端になる 視野が狭くなり、同じ失敗を繰り返す 心身が、静かに削れる 高くつくのは、気持ちではなく、判断

起業の孤独は解消すべき?

「起業 孤独」で検索して出てくる記事は、ほとんどが「孤独をどう解消するか」を書いています。経営者仲間をつくる、メンターを見つける、交流会に行く。どれも間違いではありません。

ただ、私は「解消」という言葉には、少しだけ引っかかるものがありました。孤独を全部なくそうとすると、かえって苦しくなる人がいるからです。私がそうでした。

私は、起業の孤独には二種類あると思っています。

一つは、⁠ひとりで深く考えるための時間です。誰にも邪魔されずに、事業のことを考え抜く時間。これは資源です。特に、人と長く話すと消耗するタイプの人にとって、ひとりの時間があるからこそ、事業の方向性や次にやることをじっくり考えられます。この時間まで「孤独だから」と埋めようとすると、考える時間がなくなり、判断の質が落ちます。内向的な気質がなぜ起業で強みになるのかは別の記事に書きましたが、ひとりで考えられることは、弱みではないのです。

もう一つは、⁠誰にも言えない状態としての孤独です。迷いや弱音を、出す場所がない。こちらは、放っておくと自分を削ります。判断を歪め、心身を削る。設計で潰すべきなのは、こちらです。

「孤独との戦い」という言い方がありますが、一つめまでなくそうとすると、かえって苦しくなります。向き合うべきなのは、孤独そのものではなく、「言えない」という状態のほうです。そう分けて考えるだけで、やるべきことは、かなり小さくなります。

ひとりで深く考える時間 誰にも言えない状態 資源。消してはいけない 設計で潰す 向き合うのは、こちらだけ

ひとり起業の孤独を軽くする5つの方法

では、「誰にも言えない状態」を、どう設計で潰すか。私が実際にやってきたこと、やっていることを五つに整理します。一つでも取り入れれば、孤独との付き合い方は変わります。

  1. 決める前に、一度、言葉にして誰かに見せる — 相談相手がいなくても、まずは一人でできます。相手は同業の知人でも、家族でも、いまならAIでも構いません。大事なのは相手の答えではなく、書いた瞬間に自分の中で「これ、おかしいな」と気づけることです。私が駆け出しの頃に止められなかったのは、この一手を飛ばして、頭の中だけで決めていたからでした。

  2. 同じ時期に挑戦している人を、ひとりだけ持つ — 経営者仲間を何人もつくる必要はありません。同じ時期に、同じように何かを始めた人がひとりいれば、「今月どうだった」と言い合えます。何人いるかより、「今どんな状況にいるのか」が近いことのほうが大切です。

  3. 仕事の現場で人に会う — 私は独立直後、人脈づくりのつもりで交流会に通って、名刺交換で消耗しただけで終わりました。代わりに効いたのは、展示会などで出会った方に、まず誠実にいい仕事をすることでした。そこから別の方を紹介していただくようになり、いまも相談の入口は紹介と記事と展示会です。孤独を軽くするために人に会いに行くのではなく、仕事を通じて人とつながるほうが、内向的な人には続けやすいと思います。最初のお客さんにどう出会うかは別の記事に書きました。

  4. 弱音の置き場を、仕事と分けてつくる — 家族に経営の話をすると、心配させるだけになりがちです。だから私は、経営の判断は家に持ち込まないと決めています。その代わりに、弱音だけを出せる場所を別に持つ。同じ立場の人との短いやり取りでも、書くだけの場所でも構いません。「いざとなれば言える場所がある」と思えるだけでも、気持ちは少し軽くなります。

  5. 専門家を、相談相手に数える — 先ほどの調査では、相談相手がいる経営者のうち72.5%が「顧問税理士・会計士」を挙げています。次いで知人経営者が47.1%(Management Masters 調査)。事業の数字について相談できる相手がいるだけでも、「一人で抱えなくていい」という感覚につながります。友人でなくていい。仕事として自分の事業を見てくれる人を、相談相手の一人に入れてください。

五つに共通しているのは、どれも「人付き合いを増やす」ことではなく、⁠⁠「言えない状態を、言える状態に変える」ことだということです。交流会に何度も顔を出さなくていい。飲み会も要りません。

1 2 3 4 5 決める前に 言葉にして見せる 同じ時期の人を ひとり持つ 仕事の現場で 人に会う 弱音の置き場を 仕事と分ける 専門家を 相談相手に数える 言えない状態を、言える状態に変える 人付き合いを増やす設計ではない

起業仲間がいない時の相談相手

「それでも、いま、誰もいない」という人のために、相談相手の候補を並べておきます。

  • 同じ時期に始めた人 — 先輩経営者より、同時期の人のほうが、遠慮なく話せます。

  • 専門家 — 税理士、社労士など、事業の中身を知っている専門家。経営者仲間でなくても、仕事の相談ができる相手になります。

  • 記事や本の著者 — 直接話せなくても、自分と似た立場の人が書いた文章は、相談相手の代わりになります。私もそうやって、ずいぶん助けられました。

  • AI — 判断の相手ではなく、「言葉にする」相手として。書き出すだけで、整理が進みます。

起業仲間をどう見つけるかは別の記事で詳しく書いています。ここでは、「相談相手は、友達である必要はない」とだけ、覚えておいてください。

誠実な人ほど起業で孤独になる構造

最後に、もう一段だけ踏み込みます。

ここまで読んで、「相談すればいいのは分かっている。でも、自分は相談される側になることが多くて、自分からは頼めない」と感じた方がいるかもしれません。

そう感じる方も、きっといると思います。誠実な人ほど、人の相談に乗ります。頼まれれば時間を出し、人を紹介し、力になる。でも自分のことは頼まない。頼むのが下手というより、「自分の弱音で人の時間を取る」ことに抵抗があるからです。その結果、人の相談にはたくさん乗っているのに、自分は誰にも頼れない。そんな状態になってしまうことがあります。私は、これを「いい人が損する」構造の一つだと思っています。

なぜそうなるのか。いまの仕事の場では、誰が誰の相談に乗ったか、誰がどれだけ人の役に立ったかが、どこにも記録されないからです。記録されなければ、その貢献が誰かに知られる機会もありません。だから、いつも自分から人を助けているのに、自分が頼りたいときには頼れる相手が見つからない。そんなことが起こります。

交流会をやめてずいぶん経ったあと、一度も売り込んでいないのに私を思い出して紹介してくださった方がいました。うれしかった一方で、こうも思いました。この誠実さが、人の記憶や好き嫌いに頼らずに、きちんと記録されて返ってくる仕組みがあれば、誠実な人が孤独になる構造は、少しは変えられるのではないか、と。

私がいま VectL という名前で形にしようとしているのは、そういう場です。誰かの壁打ちに付き合う、誰かを紹介する、そうした貢献がそのまま記録され、それが次の仕事やつながりにつながっていく。そして、弱音と貢献が同じ場所に置ける。頼るのが苦手な人でも、自分が誰かを頼りたいときに、これまでの貢献を理由に遠慮せず頼れる設計です。起業家だけの場ではなく、社内で新しいことを起こそうとしている人も、同じ立場で入れるようにしています。

自分 頼ってくる人 自分は頼めない 記録されない = 貢献は知られない 自分 貢献・弱音 記録 返ってくる 記録されて返る = 貢献を理由に頼れる

正直に言えば、こうした仕組みが効いてくるには、参加する人それぞれの貢献がたまる時間が要ります。魔法ではありません。それでも、誠実な人ほど孤独になる、という順番を、少しでも仕組みで逆にできないか。それが、私が取り組んでいることです。

まとめ

要点を、もう一度だけ整理します。

  1. 起業の孤独は、決めるのが自分ひとり・同じ立場の人が消える・弱音を言う相手がいない、の三つから来ます。調査でも、悩みを抱える経営者の9割近くが孤独感を感じ、4割に相談相手がいません。あなたの性格の問題ではありません。

  2. 放置すると、判断が遅れるか極端になり、視野が狭くなり、心身が削れます。孤独が高くつくのは、気持ちではなく判断の面です。

  3. 孤独には二種類あります。ひとりで深く考える時間は資源で、消してはいけません。潰すべきなのは「誰にも言えない状態」だけです。

  4. 言えない状態を変える方法は五つ。決める前に言葉にして見せる、同じ時期の人をひとり持つ、仕事の現場で人に会う、弱音の置き場を仕事と分ける、専門家を相談相手に数える。人付き合いを増やす設計ではありません。

  5. 誠実な人ほど、相談される側に回り、自分からは頼れずに孤独になりやすい。だから、貢献するだけで終わらず、必要なときには自分も頼れる環境が必要です。

孤独の3つの理由 放置の3つ 二種類に分ける 5つの設計 貢献が返る場
faq

よくある質問

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Q. 起業して孤独を感じるのは、自分が弱いからですか?

違います。決める責任がひとりに集まる立場そのものが、孤独を生みます。調査でも、悩みを抱える経営者の9割近くが孤独感や精神的負担を感じたことがあると答えています。

Q. 起業家の孤独を解消するには、交流会に行くべきですか?

交流会が合う人もいますし、実際に参加してみること自体は一つの経験になります。私は消耗しただけでした。孤独を軽くするのに必要なのは、人の数ではなく、「言えない状態」を「言える状態」に変えることです。

Q. 個人事業主で、相談相手がまったくいません。誰に相談すればいいですか?

友達である必要はありません。同じ時期に始めた人、税理士などの専門家、同じ立場で書かれた記事や本、そして「言葉にする相手」としてのAI。この中から、まず一つ、相談できる相手を増やしてみてください。

Q. ひとりで考える時間が長いのは、よくないことですか?

いいえ。ひとりで深く考える時間は、起業家にとって資源です。問題になるのは、考えたことを誰にも話さないまま、一人で決め続けてしまうことです。

Q. 孤独との戦いに疲れました。起業をやめるべきでしょうか?

その判断だけは、ひとりでしないでください。私は一社目の事業をやめる判断をひとりでして、あとから「もっと早く誰かに言えばよかった」と思いました。やめるかどうかの前に、まず一人、言える相手をつくる。順番はそこからです。

ひとりで始めた人が、ひとりのままでいなくていい場所へ

孤独 起業の孤独は、消えない 消すのではなく 分ける ひとりで考える時間 資源。残す 誰にも言えない状態 言える相手をつくる 残す孤独と、潰す孤独

ひとりで起業したことは、間違いではありません。ひとりで深く考えられることは、これからも、あなたの強みです。ただ、「誰にも言えない」だけは、抱え込まなくていい。言える相手は、友達でなくても、仲間でなくても、つくれます。

もし、誠実に人の役に立ってきた分が、ちゃんと記録されて、自分の番のときに頼れる場所を探しているなら、そういう選択肢を用意しようとしている私が、ここにいます。無理に飛び込む必要はありません。「抱え込まなくていいのか」と、少し肩の力を抜いてもらえたら、それで十分です。 → VectL

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author

高井昭彦

Yakaze Tech Studio 代表 / VectL 運営。総務省・東京都・AWS など多数のスタートアップ支援プログラムに採択。 現役で受託開発と自社プロダクトの両方を手がけ、AI エージェントを制御して事業を作る一次情報を発信している。