壁打ち相手がいない?起業家が相談相手を持つ方法
ひとりで考え込んで煮詰まったとき、事業の話を聴いてくれる壁打ち相手は、どこで見つけて、どう頼めばいいのか。会議で「持ち帰って考えます」が口ぐせの経営者が、壁打ちの意味から、向いている相手の条件、見つけ方、頼み方までを実体験から書きました。
「この方向でいいのか、ひとりで考えていると分からなくなってきた。誰かに話したい。でも、相談と言うほど大げさなことでもないし、頼める相手も思いつかない」 ── 事業のことを考えていて、そんなふうに煮詰まった夜があるなら、ここから先はあなたのための話です。
先に約束します。壁打ち相手は、特別な人脈がなくても持てます。そして、大事なのは「誰に頼むか」より「どう頼むか」です。頼み方さえ設計すれば、相手は思ったより身近にいます。
申し遅れました、高井と申します。私は一度も正社員にならないまま、フリーランスのエンジニアとして9年、現場を渡り歩いてから起業しました。会議で急に意見を求められると、口から出るのは「持ち帰って考えます」。ひとりで考え込む癖が、昔から抜けません。資金も人脈もないゼロの状態で起業したので、当然、最初はまったく仕事が取れませんでした。それでも今は、AIと自動化を使ってひとりで会社を運営し、東京都や総務省のスタートアップ支援にも採択いただいています。やりたい仕事を中心に、事業を続けられるようになりました。
そんな私の起業のきっかけは、あとで書きますが、実は「壁打ち」でした。ひとりで考え込む私が、どうやって壁打ち相手を持ち、どう頼んできたのか。この記事では、その経験をもとに書いていきます。
壁打ちとは何か
まず、言葉の整理から始めます。
「壁打ち」は、もともとテニスや野球で、壁に向かってボールを打ち、跳ね返りを受けて練習することを指す言葉です。辞書には、そこから転じて、SNSで反応を求めずに投稿すること、さらに近年は生成AIと対話しながら考えを整理することまで、意味が広がっていると書かれています(壁打ち|コトバンク(デジタル大辞泉))。
ビジネスで「壁打ち相手」と言うときの意味は、この跳ね返りの比喩そのままです。自分の考えを誰かにぶつけて、返ってくる反応を手がかりに、自分の考えを整理する。 相手は壁です。ボールを打ち返してはくれますが、代わりに試合をしてくれるわけではありません。
ここが、似た言葉との違いになります。「相談」は、答えや助言をもらうことが目的です。「ブレスト」は、複数人でアイデアを出し合うことが目的です。壁打ちは、どちらでもありません。話しているうちに、自分の考えが自分でも見えるようになることが、壁打ちの目的です。そのため、相手が専門家である必要も、答えを持っている必要もありません。
事業の壁打ちで実際に起きるのは、こういうことです。頭の中では筋が通っていたはずの話が、口に出した瞬間に「あれ、ここ、つながっていないな」と自分で気づくことがあります。相手が何か言う前に、です。壁打ちの価値は、相手から答えをもらうことだけではありません。自分の考えを口に出すことで、頭の中だけでは見えていなかったことに気づける。そこにも大きな価値があります。
壁打ち相手の役割
では、壁打ち相手は何をする人なのか。私は、三つだと思っています。
- 聴く — 途中で遮らずに、最後まで聴く。
- 問い返す — 「それはなぜ?」「それで、どうなるの?」と、こちらの言葉をもう一歩だけ掘り下げる。
- 鏡になる — 「いま、こう言ったよね」と、こちらの言ったことをそのまま返す。
やらなくていいのは、正解を出すことです。むしろ、良かれと思ってすぐにアドバイスを始める人は、壁打ち相手としては向いていません。壁打ちをしているのに、相手が先に答えを出してしまったら、こちらが考える余地がなくなります。壁打ち相手に必要なのは、答えを出すことより、相手が自分で考えられるように聴くことです。私は、これが壁打ちの基本だと考えています。
壁打ち相手がいる起業家といない起業家の違い
「壁打ち相手なんて、いなくてもやっていける」と思う方もいるでしょう。私も長くそう思っていました。でも、経営について気軽に相談できる相手がいるかどうかで、事業者の状況には違いが見られます。
中小企業庁の2020年版小規模企業白書は、「日常的な経営に関する相談相手」の有無を調べています。ここでいう相談相手とは、専門的な内容に限らず、ざっくばらんに経営や事業の話を持ちかけられる人のことです。この記事でいう「壁打ち相手」と完全に同じではありませんが、気軽に事業の話ができる相手として、近い存在だと考えています。結果を見ると、従業員を雇っていない事業者では、製造業で約5割、非製造業で約4割が、そうした相談相手を持っていません。一方で、相談相手がいる事業者では、直近5年間の経常利益が「増加」したと答える割合が、相談相手がいない事業者より高くなっています。相談相手の属性は、規模を問わず「税理士・公認会計士」が最も多く、小規模事業者では「同業種の経営者仲間」がそれに続きます(2020年版 小規模企業白書 第3部第2章第4節|中小企業庁)。
もう一つ、注目したい数字があります。相談相手がいない人に理由を聞くと、約7割が「適切な相談相手とのつながりがないから」と答えています。「必要ない」ではありません。「いない」のです。つまり、壁打ち相手がいないのは、あなたに相談する力がないからとは限りません。そもそも、相談できる相手とつながっていないだけかもしれません。つながりは、自分からつくっていけます。
相談相手がいないこと自体が生む孤独については、別の記事で詳しく書いています。ここからは、もっと具体的に、「誰に」「どう頼めばいいのか」を見ていきます。
壁打ち相手に向いている人の条件4つ
壁打ち相手は、誰でもいいわけではありません。実際に壁打ちをしてきた中で、私の失敗も含めて、向いていると思った人の条件を四つに整理します。
- 利害が近すぎない — お客さんには、迷いを見せにくい。家族には、心配をかけてしまう。利害が近い相手だと、こちらが本音を出せないことがありますし、相手も立場を考えて、率直に聴けないことがあります。少しだけ遠い人のほうが、お互いに構えず話しやすいものです。
- 結論を急がない — 「それならこうすればいい」とすぐに言いたくなる人は、親切ですが、壁打ちの相手には少し向かないことがあります。こちらの考えが見えてくる前に、相手の答えを考えることに意識が向いてしまうからです。
- 同じ時期に、何かに挑戦している — 先輩経営者の助言は貴重ですが、壁打ちをするときに必要なのは、必ずしも経験や答えを持っていることではありません。同じ時期に同じように迷っている人は、「自分もまだ分からない」と思っているからこそ、こちらの話をそのまま聴いてくれることがあります。
- こちらの仕事ぶりを、少しでも知っている — 会ったばかりの人に壁打ちを頼んでも、まず自分の仕事や状況を説明するところから始めることになります。私は独立直後、交流会で知り合った人に事業の話をしてみたことがありますが、その場で少し話して終わることが多く、壁打ちと呼べるような関係にはなりませんでした。正直に言えば、事業の深い話をしても、意味のあるアドバイスがすぐに返ってくることは、そう多くありません。だからこそ相手に求めるのは助言ではなく、こちらの仕事ぶりをある程度知ったうえで、話を聴いてくれることです。仕事ぶりを見たことがある相手なら、前提を飛ばして本題に入れます。
四つに共通しているのは、「親しさ」でも「実績」でもなく、こちらが自分の考えを整理する余地があることです。答えを出してくれる人より、自分で考えるための時間をつくってくれる人。それが、私にとっての壁打ち相手です。
壁打ち相手の見つけ方5つ
条件が見えたところで、実際にどこで見つけるか。ここからは、私が実際に使ってきた五つの経路を、人脈がほとんどない状態からでも始めやすい順に紹介します。
- 同じ時期に始めた起業家を、ひとり — 何人も探す必要はありません。同じ時期に独立した人、同じ講座やプログラムにいた人、同じ支援制度に採択された人。「今月どうでした」と気軽に話せる関係があるだけでも、壁打ち相手になります。起業仲間をどう見つけるかは、別の記事で詳しく書いています。
- 税理士など、事業を見ている専門家 — 白書でも、相談相手として最も多いのは税理士・公認会計士でした。数字を通してあなたの事業を知っている人は、前提の説明が少なくて済むため、壁打ち相手の候補になります。「相談料が発生する話ではなく、少し聴いてほしいだけ」と最初に言えば、相談しやすくなるかもしれません。
- 記事や本、発信の著者 — 直接話せなくても、自分と近い立場の人が書いた文章を読むことで、「自分はここが違う」「ここは同じだ」と、考えが動きます。誰かの考えを読むだけでも、自分の考えを整理するきっかけになります。私自身、起業してから相談や仕事につながったきっかけには、紹介や、記事を読んでくださった方とのやり取り、展示会での出会いがありました。書いている側から見ても、読んで連絡をくれた人とは、そこから話をする関係になることがあります。
- AI — 生成AIとの対話も、いまでは壁打ちの一つの方法として使えます。深夜でも、自分の考えを言葉にする相手になってくれます。私も、AIに壁打ちの相手をしてもらうことがあります。AIに作業を任せることも多いです。ただ、AIが出した答えをそのまま使うのではなく、品質は自分で確かめ、何をしているのかも理解したうえで使うようにしています。AIは「言葉にする相手」であって、判断を預ける相手ではありません。
- 仕事の現場で出会った人 — 展示会や案件で出会い、まずこちらが誠実にいい仕事をした相手とは、その後も仕事を通じて関係が続くことがあります。そうして仕事ぶりを知ってもらった相手は、壁打ち相手にもなってくれます。私の場合、展示会で出会った方に仕事を通じて信頼してもらえたことが、その後の紹介につながりました。そこからつながった人の中に、いまも話を聴いてくれる人がいます。最初のお客さんにどう出会うかは別の記事に書きました。
公的な相談窓口や、メンターと呼ばれる人に相談する方法もあります。ただ、まずはこの五つの中から、自分が始めやすそうなものを一つ選んでみてください。
壁打ちの頼み方とやり方
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。「誰に頼むか」が分かっても、実際に頼むところで止まってしまう人はいます。ひとりで考え込むタイプの人が本当に困るのは、「どう頼めばいいのか」です。「ちょっと話を聞いてもらえますか」の一言が出ない。私もそうでした。そこで、口頭で頼むところから始めなくてもいい形にしました。頼むときに意識しているのは、四つです。
- 書いてから、渡す — 口頭で切り出さない。いま考えていることを、A4一枚以内の文章にして、先に送る。「読んでもらって、感想だけもらえたら」と添える。書いているうちに、自分でも考えが整理されてきます。「持ち帰って考えます」の私には、この順番が合っていました。
- 問いを、一つに絞る — 「事業全体をどう思うか」ではなく、「この価格設定は高すぎると思うか」のように、一つに絞る。相手も答えやすくなり、返ってくる反応も具体的になります。
- 時間を、30分と切る — 「30分だけ」と最初に決める。相手も引き受けやすくなりますし、こちらも話す内容を絞れます。
- 「答えはいらない、聴いてほしい」と先に言う — これを最初に伝えておくと、相手も「アドバイスをしなければ」と構えずに済みます。「意見が欲しいのではなく、話しているうちに自分で整理したいので、聴いていてほしい」と、冒頭で伝える。これだけでも、壁打ちの目的を共有しやすくなります。
この四つの根っこには、私の持論があります。評価されるべきは肩書きや常識ではなく、仕事の質そのもの。私自身、勉強やスキルアップを続けるだけでなく、まず作って外に出すことで、次に何をすべきかが見えてきた経験があります。壁打ちも同じで、上手に話すことが目的ではありません。自分の考えを外に出して、反応を受け取り、そこから考えを整理することが大切です。
私の起業のきっかけは、ハッカソンです。ひとりで作っていたものを、大会という場に出してみました。すると、思いもよらない評価をもらい、実証のための費用がつくことになりました。それが、会社をつくるきっかけになりました。いま振り返ると、あれは私にとって最大の壁打ちでした。口では説明できない私が、動くものを作って外に出した。すると周りから反応が返ってきて、それを見て初めて、自分が何を作りたいのかが分かりました。書いて渡す、動くものを見せる。ひとりで考え込む私にとっての壁打ちは、話し上手になることではなく、自分の考えを、話さなくても伝わる形にして外に出すことでした。
ひとりで深く考えられること自体は、弱みではありません。その気質の話は別の記事に譲りますが、考え込んだことを、まず書いて外に出してみる。そこから誰かの反応をもらえば、壁打ちは始められます。
会社の中で新しい事業を任されている人も、同じです。社内に壁打ち相手がいないなら、まず考えていることを一枚にまとめて、社外の誰かに読んでもらうところから始めてもいい。その話は別の記事に書いてあります。
壁打ち相手が見つからない時の考え方
最後に、もう一段だけ踏み込みます。
ここまで読んで、「五つの経路も、頼み方も分かった。でも、やっぱり頼める相手が思いつかない」という方がいるかもしれません。
白書の数字をもう一度思い出してください。相談相手がいない人の約7割が、「適切な相談相手とのつながりがない」と答えていました。だから、壁打ち相手が見つからないことを、自分の頼み方や人脈のせいにしなくてもいいと思います。壁打ちの相手に出会える場が、身近にあるとは限らないからです。
しかも、人の相談には丁寧に向き合う人ほど、自分からは頼れないことがあります。人の話は聴く。頼まれれば壁打ちに付き合う。でも自分のことは頼まない。「自分の迷いで人の時間を取る」ことに抵抗があるからです。その結果、人の壁打ちにはたくさん付き合ってきたのに、自分が頼りたいときには、誰に頼めばいいのか分からない。そんな状態になることがあります。私はこれを、「いい人が損する」状態の一つだと思っています。
なぜそうなるのか。誰かの相談に乗ったことや、人を紹介したことは、その場で終わってしまいがちです。どこにも記録されないので、その貢献があとから相談し合える関係につながることも、なかなかありません。そのため、いつも人の相談には乗っているのに、自分が頼りたいときには頼れる相手が見つからないのです。
私がいま VectL という名前で形にしようとしているのは、そうした貢献を記録し、あとから人とのつながりに生かせる場です。誰かの壁打ちに付き合う、誰かを紹介する、そうした貢献が記録され、それをきっかけに次の仕事やつながりが生まれていく。壁打ちに付き合った履歴が、「この人になら相談できそうだ」と思えるきっかけになる。そんな仕組みをつくろうとしています。そうなれば、頼るのが苦手な人でも、自分が誰かを頼りたいときに、これまでの貢献を理由に遠慮せず頼れる。起業家だけの場ではなく、社内で新しいことを起こそうとしている人も、同じ立場で入れるようにしています。
正直に言えば、こうした仕組みが機能するには、参加する人それぞれの貢献が積み重なる時間が必要です。すぐに関係が生まれるわけではありません。それでも、壁打ち相手を一から探し続けなくても、これまでの貢献や仕事を通じて、相談できる相手とつながっていく形にできないか。それが、私が取り組んでいることです。
まとめ
要点を、もう一度だけ整理します。
- 壁打ちとは、自分の考えを人にぶつけ、跳ね返りで自分の考えを整理すること。相談ともブレストとも違い、相手は答えを持っていなくていい。役割は、聴く・問い返す・鏡になる、の三つです。
- 白書では、従業員のいない事業者の4〜5割に日常の相談相手がおらず、相談相手がいる事業者のほうが、直近5年間の経常利益が「増加」したと答える割合が高くなっています。いない理由の約7割は「つながりがない」で、自分の頼み方や人脈のせいにする必要はありません。
- 向いている人の条件は、利害が近すぎない・結論を急がない・同じ時期に挑戦している・こちらの仕事ぶりを知っている、の四つ。共通しているのは、自分の考えを整理する余地をつくってくれることです。
- 見つけ方は、同時期の起業家・専門家・記事や本の著者・AI・仕事の現場で出会った人、の五つ。人脈が少ない状態でも、自分が始めやすいところから試せます。
- 頼み方は、書いてから渡す・問いを一つに絞る・30分と切る・「答えはいらない」と先に言う。ひとりで考え込む人の壁打ちは、話し上手になることではなく、自分の考えを、話さなくても伝わる形にして外に出すことです。
faq
よくある質問
開く ▾
Q. 壁打ち相手とは、ビジネスではどういう意味ですか?
自分の考えを話し、反応をもらいながら、自分の考えを整理するための相手です。答えをもらうことが目的ではありません。相談やブレストと違い、相手が専門家である必要はありません。
Q. 壁打ち相手がいません。どうすればいいですか?
まず、同じ時期に始めた人や、税理士など事業を見ている専門家に、「30分だけ、聴いてほしい」と書いて頼んでみてください。それも難しければ、AIを「言葉にする相手」として使うところから始められます。
Q. 壁打ちの相手にAIを使うのはありですか?
ありです。AIとの対話も、壁打ちの一つの方法として使えます。ただし、判断は預けず、言葉にする相手として使うのがよいと思います。
Q. 壁打ちを頼むとき、相手に迷惑ではないでしょうか?
書いた一枚を先に渡し、問いを一つに絞り、時間を30分と決めておくと、相手も引き受けやすくなります。そして「答えはいらない」と先に言えば、相手も「何か答えを用意しなければ」と構えずに済みます。
Q. 事業の壁打ちは、誰にすればいいですか?
利害が近すぎず、結論を急がず、同じ時期に挑戦していて、こちらの仕事ぶりを知っている人です。すべてを満たす必要はありません。まずは、この中で話しやすそうな人に頼んでみてください。
壁打ちの相手が、向こうから見つかる場所へ
ひとりで考え込むことは、悪いことではありません。考え込んだことを、書いたり、動くものにしたりして外に出す。そこから誰かの反応をもらうことで、壁打ちが始まります。相手は、話し上手な人でなくていいし、あなたも、頼み上手になる必要はありません。
もし、誰かの壁打ちに付き合ってきたことが記録され、それをきっかけに次に相談できる人とつながっていく場所を探しているなら、そういう選択肢を用意しようとしている私が、ここにいます。無理に飛び込む必要はありません。「自分ひとりで抱えなくてもいいかもしれない」と思ってもらえたら、それで十分です。 → VectL