根回しが苦手な新規事業担当が社内で提案を通す4つの方法
会議の前に上司の席へ行って話を通す、あの一手がどうしても踏み出せない ── 根回しや社内営業が苦手なまま、新規事業の提案を社内で通すには何ができるのか。会議でほとんど発言しなかったエンジニア時代の経験をもとに、苦手を克服せずに提案を前へ進める考え方と方法を書きました。
「企画の中身には自信がある。でも、会議の前に上司の席へ行って『ちょっとご相談が』と切り出す、あの一手がどうしてもできない。根回しをしている自分を想像すると、なんだか媚びているようで嫌になる」 ── もしあなたが、新規事業や新しい企画を社内で動かす立場にいて、そんなふうに感じているなら、この先はあなたに向けて書いています。先に約束します。社内営業や根回しが苦手なままでも、提案を前に進める方法はあります。しかも、苦手なことを無理に克服する必要はありません。
申し遅れました、高井と申します。私は一度も正社員にならないまま、フリーランスのエンジニアとして9年、いろいろな現場を渡り歩きました。外から来た技術者だった私は、どの現場でも会議ではほとんど発言しない人間でした。口ぐせは「持ち帰って考えます」。決裁者の席に行って事前に話を通したり、飲み会で味方を増やしたりするような立ち回りは、どうもうまくできず、外様の提案ほど通らない、という場面を何度も見てきました。そんな私ですが、資金も人脈もないゼロの状態から起業しました。最初は仕事がまったく取れない時期もありましたが、今はAIと自動化でひとりで会社を回し、東京都や総務省のスタートアップ支援にも採択いただき、やりたい仕事だけを受けて会社が回っています。この記事では、そんな私が、根回しや社内営業が苦手なまま、どうやって仕事や提案を進めてきたのかを書いていきます。
社内営業・根回しが苦手な理由
まず、「根回し」と「社内営業」が何を指すのか、整理しておきます。
「根回し」は、もともと庭木を移す前の準備を指す言葉です。そこから転じて、会議や決裁の前に関係者へ話をして、あらかじめ理解や合意を得ておくことを指すようになりました(根回し|Wikipedia)。
「社内営業」も、似た意味で使われます。上司や他部署などと普段からコミュニケーションを取り、自分の仕事や提案を進めやすくしておくことです。
検索すると、社内営業や根回しについて、こんなアドバイスが出てきます。
- 普段から上司や同僚とコミュニケーションを取っておく
- キーパーソンとは、事前に関係をつくっておく
- 会議の前に、関係者へ説明しておく
- 挨拶や雑談、報連相を欠かさない
要するに、普段から周囲とコミュニケーションを取り、仕事の相談や提案をしやすい関係をつくっておく。そのうえで、会議や決裁の前には関係者に内容を伝え、あらかじめ理解してもらっておくことが大切だ、ということです。
たしかに、こうしたやり方は組織の中で仕事を進めるうえで役に立ちます。
私自身も、それを否定するつもりはありません。
ただ、問題は、「必要なのは分かっている。でも、それがどうしても苦手」という人もいることです。
私も、まさにそういうタイプでした。だからこそ、中身を考えることには時間をかけるのに、それを通すための準備にはあまり時間を使わない。結果として、自分より提案の中身が優れているとは思えない人のほうが、先に話が進んでいくこともありました。
これは、努力が足りないというだけの話ではありません。仕事の進み方には、提案の中身以外にも、関係性や伝え方が影響するからです。中身を磨いているのに、根回しのうまさで提案の進み方に差がついてしまう。私は、こういう状況を「いい人が損をする」構造だと考えています。このテーマについては別の記事で詳しく書いているので、ここでは「自分の努力だけではどうにもならない場面もある」とだけ覚えておいてください。
では、根回しが苦手な人には、どんな共通点があるのでしょうか。
根回しが苦手な人の特徴5つ
自分に当てはまるか、確かめてみてください。私は全部でした。
- 媚びているように見られることが苦手 — 上司の機嫌をうかがったり、飲み会で距離を縮めたりすることを、「仕事のため」と頭では分かっているのに、どうしても「ゴマすり」や懐に入る方法のように感じられて、抵抗がある。
- 中身で判断してほしいと思っている — 「誰が言ったか」より「何を言ったか」で判断されるべきだと思っている。だから、提案の中身を考えることには時間をかけるのに、それをどう伝えるか、誰にどう話を通すかまでは、あまり考えない。
- 正しい提案なら、いずれ分かってもらえると思っている — 論理が通っていて、内容が良ければ、いずれ分かってもらえるはずだと考える。実際には、それだけで物事が進むとは限りません。でも、そう考えてしまうのは、提案そのものに真剣に向き合っているからでもあります。
- 人とやり取りが続くと、かなり疲れる — 一日中会議や立ち話が続くと、仕事が終わるころには何も考えたくなくなる。根回しは、関係者に一人ずつ話をしたり、何度もコミュニケーションを取ったりする必要があるので、こうした人にとっては負担が大きい。
- その場でうまく答えられない — 急に話を振られると、すぐに気の利いた返答ができない。「一度持ち帰って考えます」が口ぐせになっている。会議では発言が少なくなり、「あの人は何を考えているのか分からない」と思われてしまうこともあります。
どれも、単純な欠点とは言い切れません。気質なのです。得意なことと苦手なことの違いです。だから、無理に性格を変えるのではなく、苦手な部分を前提に、どうすれば仕事を進められるかを考えていきます。
根回しを克服すべきか、設計で回すべきか
ここで、道が二つに分かれます。
一つは、根回しのやり方を覚えて、苦手を克服していく道です。 根回しの意味を理解し、相手のタイプに合わせた対応を覚え、決裁の順序を押さえて、事前に話を通しておく。
もう一つは、私が選んだ道です。苦手を克服するのではなく、苦手なままでも提案を進められるように、やり方を変える。 根回しそのものをなくすのではありません。「席まで行って耳打ちする」「飲み会で味方をつくる」といった、自分が特に苦手なやり方を、別の手段に置き換えるということです。
なぜそう考えるかというと、内向的な人が持っている力は、そもそも「その場で声を張る」ことではないからです。作家のスーザン・ケインは、内向的な人が持つ深く考える力や準備の力は、外向的な振る舞いが評価されがちな社会でこそ見落とされている、と語っています(The power of introverts|TED)。苦手なやり方で無理に伝えようとするより、自分が得意な方法で伝えたほうが、提案の内容も伝わりやすくなります。内向的な人が持っている強みについては別の記事で詳しく書いています。ここでは、性格を無理に変えるのではなく、自分に合うやり方で提案を進めるという考え方で、話を進めていきます。
会議で喋れない人の提案の通し方
具体的に、どういうことか。エンジニアだった頃の話をします。
ある案件で、進め方を決める会議がありました。そこに、周りを見ながら自信を持って提案している、声の大きい人がいる。私はといえば、いつものように黙って、「持ち帰って考えます」と言うのがやっとでした。事前に誰かの席へ行って話を通すこともしていません。というより、そういう発想自体がありませんでした。
代わりに私がやったのは、地味なことでした。客先の業務フローを一週間ぶんノートに書き起こし、それを何度も読み返しました。すると、依頼書に書かれている「困りごと」と、実際に現場が困っているところには、少しズレがあることに気づきました。本当に困っているのは依頼書のここではなく、その手前の工程ではないか。それを一枚のメモにして送りました。
結果、会議で一番声の大きかった人の提案は通らず、私の地味なメモのほうが採用されました。誰にも根回しをしていない。会議でも喋っていない。それでも通ったのは、私の押しが強かったからではなく、相手が本当に困っているところを、相手より先に、書いて見せることができたからです。
このとき初めて、根回しができない自分でも通す方法はあるのだと思えました。声を張る代わりに、聴いて、考えて、書く。会議でうまく話せない私にも、できることはありました。次の章では、この経験を、誰でも試せる形に整理してみます。
根回しなしで新規事業を社内で通す方法
新規事業の提案は、業務改善よりさらに通りにくいものです。前例がなく、数字の裏づけも薄く、既存事業の側から見れば「自分たちの資源を食う話」に見えかねません。だからこそ根回しの得意な人が有利になりやすい領域です。その中で、私が実際に試してきた、根回しをしなくても提案を進めるための方法を4つに整理します。
- 話す前に、一枚のメモに書いて渡す — 口頭の説明が苦手なら、書いたものに語らせます。誰が、何に困っていて、何を試したいのか、それがうまくいったら会社にとって何が変わるのか。これを一枚のメモにして、会議の前に読んでもらえるように渡しておく。 実は、あのAmazonも社内の会議ではスライドを使わず、文章で書いた6ページのメモから始めることで知られています。創業者のジェフ・ベゾスは株主への手紙で「We don't do PowerPoint (or any other slide-oriented) presentations at Amazon. Instead, we write narratively structured six-page memos.」と書いています(2017 Letter to Shareholders|Amazon)。書いて渡しておけば、会議の前に相手が内容を考える時間をつくれます。耳打ちしなくても、事前説明の役割はメモが果たしてくれます。
- 結論を言い切らず、疑問形で判断を相手に残す — 提案が「こうすべきです」という形だと、相手によっては、自分の判断を急かされているように感じるかもしれません。 私は社外の相手にも社内の相手にも、提案は必ず「ここは、こういう形もあり得ますか?」という疑問形にしてきました。結論をあえて言い切らず、判断は相手に残す。相手も、自分で考えて判断しやすくなります。社外のお客さんに対して同じ方法を使ってきた話は別の記事に書きましたが、社内でも基本的な考え方は同じです。
- 言葉より、小さく動くものを見せる — 新規事業の提案が通りにくい大きな理由の一つは、「実際にどうなるのか想像しにくい」ことです。 だから、企画書を分厚くする前に、図解や、簡単に動く試作を一つ作って見せる。私は営業トークの代わりにビジュアルと動くモックを見せることを、ずっと自分の戦略にしてきました。「完成するとこうなります」というものが目の前にあれば、言葉だけで説明するより、完成形をイメージしてもらいやすくなります。
- "通す"より"巻き込む" ── 相手の困りごとを先に聴き、相手の言葉で書く — ここが一番大事です。根回しが苦手な人は「自分の企画を分かってもらう」ことに意識が向きがちですが、通る提案はたいてい逆で、「相手がすでに困っていることを、この企画が解決する」形をしています。会議室で声を張れなくても、一対一でじっくり聴くことは、内向的な人がもともと得意なことです。関連部署の人に「今、何が一番大変ですか」と聞き、その言葉を提案の中にそのまま使ってみる。 すると提案は「私の企画」ではなく「あなたの困りごとへの答え」になり、相手は説得される側から、一緒に進める側に回ります。根回しが「提案を通すための事前準備」だとすれば、こちらは「相手の話を聞いて、一緒に進めるための準備」です。
この4つに共通するのは、どれも、その場でうまく話すことを前提にしていないことです。 書く、聴く、作る、渡す。会議で一番喋らない人間でも、全部できます。
上司・決裁者への伝え方の手順
4つの方法を、実際に上司や決裁者へ提案を出すときの手順にまとめておきます。
- 誰の、どんな困りごとに効く企画かを先に決める — 「自分がやりたいこと」からではなく、「決裁者や関連部署がすでに抱えている痛み」から企画を言い直します。ここで一対一のヒアリングを1〜2回しておくと、その後の提案がしやすくなります。
- 一枚に書く — 困りごと・仮説・小さく試す方法・うまくいった時の変化・うまくいかなかった時の撤退線、を一枚に収めます。うまくいかなかった場合に、どこでやめるかも先に書いておきます。そうしておくと、決裁者も「始めたら止められないのでは」という不安を持ちにくくなります。
- 疑問形で渡して、待つ — 「こういう形もあり得ますか。ご意見をいただけたら」と添えて渡し、その場で結論を求めない。相手が一人で読んで考える時間をつくる。これも、根回しの一つのやり方だと思います。
社内営業をしない新規事業担当のデメリットと対策
ここまで良い面を話してきましたが、正直なところも言っておきます。社内営業や根回しをしないやり方には、はっきりしたデメリットがあります。
- 評価されにくい — 成果を出しても、それが周囲に伝わっていなければ、評価に反映されにくい。根回しがうまい人は、成果を出す前から上司や周囲に仕事ぶりを知ってもらえていることがあります。
- 時間がかかる — 一枚のメモや試作を通して信頼を得るまでには、普段から周囲と関係をつくっている人より時間がかかることがあります。最初の数カ月は静かです。
- 孤立しやすい — 飲み会やランチに顔を出さない分、社内に「味方」と呼べる人が増えにくい。提案が一度つまずいたとき、拾ってくれる人がいない。
これらは根性で埋めるより、設計で小さくするほうが現実的です。評価については、成果を「見える形」に残しておくことです。書いたメモ、動いた試作、数字の変化などを、短く共有しておく。自己アピールではなく報告なので、根回しが苦手な人にも無理なくできます。時間については、最初から大きく通そうとせず、小さく試せる単位に企画を割ること。そしてもう一つ、社内で説明するときに説得材料になりやすいのが、社外の反応です。企画を社内で通す前に、小さく市場の反応を確かめてしまう。需要の証拠が一つあるだけでも、決裁者にとって判断する材料になります。
孤立については、次の章で少し違う角度から話します。
社内で通らない時、社外に相談相手はいる?
正直に言えば、どれだけ設計しても、通らないときは通りません。新規事業の担当者にとって、企画が通らないこと以上に苦しいのは、通らなかったときに、それを相談できる相手が社内にいないことかもしれません。上司は決裁者でもあるので本音を言いにくい。同僚は既存事業で忙しい。相談したり、考えを整理したりする相手がいないまま、一人で抱え込んでしまう。
私も起業した直後は同じ孤独を味わい、「まず人脈づくり」という常識に従って異業種交流会に通いましたが、名刺を配って消耗するばかりだったので、通うのをやめました。代わりに、過去に関わった相手にだけ誠実に向き合い続けていたら、ずいぶん経ったある日、一度も売り込んでいないのに私を思い出して紹介してくださった方がいた。そのとき思ったのです。仕事や紹介のきっかけは、声の大きさだけで生まれるものではなく、誰かの記憶に残った仕事ぶりから生まれることもある。なら、その誠実さが人の記憶や好き嫌いに頼らず、ちゃんと記録されて返ってくる仕組みがあれば ── 根回しが苦手な人でも、きちんと貢献が評価される仕組みがあれば、もっと仕事を進めやすくなるのではないか、と。
社外の仲間をどう見つけるかは、別の記事に詳しく書きました。
これは、会社の中で「正しいと思うことを提案しているのに、なかなか通らない」と感じてきた人にも、共通する問題だと思います。誰がどれだけ貢献したかが記録されないまま、その場での発言力や印象によって、次の仕事や役割が決まることがあります。こうした「いい人が損をする」状況は、社内だけの話ではありません。
だから私は今、社外にも、そうしたつながりをつくれる場が必要だと考えています。誰かを紹介したり、誰かの相談に乗ったり。そうした貢献をきちんと記録し、次の仕事や新しいつながりにつなげていく。VectL という名前で、そんな仕組みをつくっている途中です。
起業家だけの場ではありません。社内で新しいことを起こそうとしている人も、同じ立場で入れる設計にしています。ただ正直に言えば、こうした仕組みが機能するには、メンバーそれぞれの貢献が積み重なる時間が必要です。魔法ではありません。それでも、社内だけで抱え込まず、社外の誰かに相談しながら提案を考え直す方法はあります。壁打ちの相手をどう見つけるかという実務的な話は、また別の記事で書きます。
まとめ
要点を、もう一度だけ整理します。
- 根回し・社内営業には、組織の中で提案を進めやすくする役割があります。ただ、それが分かっていても、苦手でできない人もいます。
- 苦手を克服する道もあるが、苦手なまま通る形に「出し方」を設計し直す道もある。内向的な人の武器は、声を張ることではなく、聴いて・考えて・書くことにあります。
- 根回しなしで通す方法は4つ。一枚に書いて渡す/疑問形で判断を相手に残す/小さく動くものを見せる/相手の困りごとを先に聴いて相手の言葉で書く("通す"より"巻き込む")。
- デメリットである「評価されにくい・時間がかかる・孤立」は、成果を見える形に残す、小さく試す、社外の反応を持ち込む、といった方法で抑えることができます。
- それでも通らないとき、社外に相談相手を持つ道がある。誠実な貢献が記録されて返る場を、いま形にしようとしています。
faq
よくある質問
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Q. 根回しができないと、やっぱり出世できませんか?
職場によっては、不利になることもあります。ただ、根回しには、関係者が事前に内容を理解し、考える時間をつくるという役割があります。席まで行って説明する代わりに、一枚のメモを先に渡すことで、その役割をある程度補うことができるのです。その分、成果や進捗を「見える形」で残しておくことが大切です。
Q. 社内営業が苦手なのは、性格の問題ですか?
性格や気質によるところはありますが、それを欠点と決めつける必要はありません。声より中身で勝負したい、正しければ通ると信じている、対人で消耗する ── こうした傾向は、見方を変えれば、誠実さや慎重さにもつながります。変えるより、活かし方を設計するほうが現実的です。
Q. 新規事業の企画を上司に通すには、何から始めればいいですか?
「自分がやりたいこと」からではなく、「上司や関連部署がすでに困っていること」からです。一対一で困りごとを聴き、それに効く形で企画を一枚に書き直し、疑問形で渡して待つ。この順番なら、根回しが苦手な人でも無理なく進めやすくなります。
Q. 提案が「押しつけ」に見えないか心配です。
結論を言い切らず、「こういう形もあり得ますか?」と疑問形で渡してみてください。判断を相手に残すので、押しつけになりにくく、断られる怖さもやわらぎます。
Q. 社内で企画が通らず、相談できる人もいません。どうすれば?
社内に壁打ち相手や相談相手がいないのは、新規事業担当にはよくある孤独です。社外に相談相手を持つ道があります。売り込みや根回しをせずに、人とのつながりをつくれる場もあります。誰かを紹介したり、相談に乗ったりといった貢献を記録し、それが次の仕事やつながりにつながる仕組みを、いまつくっています。
声を張らない人の提案が、通る場所へ
根回しができないことは、あなたの提案の価値を下げません。会議であまり話せない人でも、一枚のメモによって、自分の提案を通せることはあります。社内で行き詰まったときに相談できる相手を、社外にも持っておくという選択肢があります。無理に飛び込む必要はありません。「こういう通し方もあるのか」と、頭の隅に置いておいてもらえたら、それで十分です。 → VectL